土に触れ、川を歩き、海と呼吸する。
土と水と共に生きる
歩くこと。それはただ前に進むだけではない。足元を感じ、大地を知り、自然とつながること。湯浅慶朗さんは、日々その一歩一歩に、確かな想いを込めている。理学療法士として、YOSHIRO SOCKSの開発者として、そして何より、自然を愛するひとりの人間として──彼が歩んできた道を聞いた。

自然の鼓動を感じながら、共に生きる。
海と犬と、そして日々の暮らし
25歳のとき、私は初めてシェパードを家族に迎えました。買ったのではありません。里親募集に出ていた、飼えなくなった子たちを引き取りました。初代は、漆黒の毛並みを持つブラックシェパード。続く2代目、3代目は、雪のように白いホワイトシェパードたち。私は彼らと共に、毎日海を散歩することを習慣にしています。ときには川へも足を延ばします。波の音を聞きながら、犬たちと歩く時間。無言のまま、ただ自然の中に溶け込む感覚。それは、どんなに忙しい日々の中でも、私に「生きる実感」を与えてくれるものです。

小さな違和感が、小さな革命になる。
気づいた汚れ、始まった小さな行動
しかし、目を凝らすと、そこには現実がありました。海岸に打ち上げられたゴミ。川の流れに浮かぶプラスチック片。このまま見過ごしていいのだろうか。そんな気持ちが湧き上がり、私は散歩中にゴミを拾うことを習慣化しました。特別な活動ではありません。ただ、自然に対する小さな恩返しとして、日々の歩みに組み込んだのです。「どうせ拾ってもキリがない」という声も聞こえてきます。けれど私は信じています。一人の一歩でも、積み重なれば景色を変える力になると。

痛みが教えてくれた、守るべきもの。
失われた命、そして生まれた決意
そんな中、忘れられない出来事がありました。最愛の初代ブラックシェパードが、ある日、川の水を飲んだ直後に急性腎不全を起こし、突然この世を去ったのです。あまりにも早い別れでした。悲しみと同時に、私は強い怒りを覚えました。川の水が、農薬や化学物質で汚染されていた現実に直面したからです。川は海へと流れ、海はまた、私たち人間の暮らしへとつながっている。一箇所の汚染は、巡り巡ってすべてに影響を与える。私は痛みをもって、その事実を体感しました。

大地を癒すことは、未来を育てること。
未来を変えるために、土に還る
「ならば、自分にできることをやろう。」そう思い、私は仲間たちと共に、山口県で小さな農業プロジェクトを立ち上げました。目指したのは、農薬を一切使わずに育てる、米と野菜。さらに、水資源をできる限り節約しながら栽培する新たな農法にも挑戦しています。加えて、微生物の力を活かし、土中に炭を埋めることで、土壌や水質を自然なかたちで改善する技術にも取り組んでいます。まだほんの小さな畑。試行錯誤の連続です。けれど、この方法で、従来と同じ、いやそれ以上の収穫量と品質を維持できれば──きっと、多くの農家にも広がると信じています。

一歩一歩が、世界を変えていく。
未来は、足元から変えられる
なぜ私は、そこまで土や水にこだわるのか。それは、土が健康でなければ、川も海も、空気も、そして人間も健康ではいられないと確信しているからです。土に還り、川を育て、海を守る。それは犬たちだけでなく、私たち人間自身のためでもある。本当の意味で「豊かに生きる」ために、欠かせないものだからです。今日も、海沿いの道を犬たちと歩きながら、私は一つ一つ、足元のゴミを拾い上げます。それは、たった一人の小さな行動かもしれない。けれど、私は信じています。小さな一歩が、未来を育てるのだと。